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連載小説「黄昏と暁のみろく横丁」 shot.33

流しソーメン大会  (PART1)

 七月のテナント会では、八月下旬に開催予定の恒例イベント〈流しソーメン大会〉について協議された。

〈大のりまき大会〉の時に疑問に思った経費負担について、予め予算を立てるよう提案した。また屋外で開催される食のイベントについて、衛生上の問題点を指摘した。万が一の健康被害が発生した場合に、テナントとデベロッパーはどのような責任を負うのか。PL保険(生産物賠償責任保険)には主催団体として加入しているのか。異物混入の危険性についてはどのような未然防止策がなされるのか。流しソーメンの上流は、樋の高さがあるため背の高い大人が並び、下流には抵抗力の弱い子供・高齢者が並ぶことが想定される。もし上流に保菌者がいれば健康被害の発生が容易に起こりえるし、そもそも他人が口をつけた箸の雑菌が流れてくるソーメン大会は不衛生極まりないから開催そのものを中止すべきではないか。

 このような意見を述べた所、これまで加入してこなかったPL保険は、イベント当日の加入をすることにはなった。しかし、他の意見に対しては明確な回答がなく、曖昧なまま結局開催される運びとなった。

 八月二十八日は霧雨混じりの曇天だった。開催が危ぶまれたが、五月のような爆破予告もなく、予定通り実施されることになった。だが来街者は少ない。例年〈流しソーメン大会〉は参加者を二回に分けて入替え制で行われるらしい。雲行きが怪しいため参加見込み数は少ないだろうと役員が判断し、各店で茹でて準備するソーメンの量は半分でよいと指示があった。

確かに、受付に並ぶ参加者の数は少ないようだった。ソーメンは各屋台が自前で用意した乾麺を茹でるのだが、段々並び始めた人の列を見て〈半分では足りないのではないか〉と危惧する店は、指示を無視して全量を準備した。中には追加で乾麺を買いに行った店もあった。

 一回目が始まったところで、ある役員が歩いて廻ってきた。

「二回目は無しね。二回目は内輪で楽しもう」

私は参加者の誘導に立ち、二回目の参加希望者を並ばせていた。別の役員が、改めて指示を出す。

「二回目は無し」

私は、列を作り始めた十数人に終了のお詫びをしなければならなかった。二回目を行わないという判断が本当に正しかったか。閉鎖された屋台村の中で、役員と屋台のスタッフたちだけが流しソーメンを味わっている。誰かが私に声をかけてきた。

「参加しないんですか」

私は憮然とした口調で、短く答えた。

「結構です」

そして、さっさと後片付けに取り掛かった。

誰の、何のためのイベントなのか。当初の目的を見失っていると思った。長年開催するうちに、自分たちが楽しむためのイベントと化してしまったのではないか。

                                    (続く)

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