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連載小説「黄昏と暁のみろく横丁」 shot.37

店は誰のものか

 十月末はハロウィンだ。みろく横丁では、十月一日から各屋台でハロウィンの飾り付けをして、店頭に観賞用のかぼちゃをディスプレイする。顔を描いたかぼちゃを刳り抜く作業は、二十五日くらいから始める。余り早くに刳り抜くと腐ってしまい、肝心の三十一日には使い物にならないからだ。

 ハロウィン当日は、〈仮装して来店したらドリンク一杯サービス〉という企画で全店がハロウィンを盛り上げる。

 リオちゃんとユウキ君にイベントの内容を話した。二人はとても乗り気で、当日仮装してくるだけではなく、かぼちゃを刳り抜いてくれるという。二人の協力にはとても助かる。

七月に七夕飾りを全店でディスプレイしたときも、二人はコツコツと花紙を織ってくれた。リオちゃんのデザインで二個のクス球を作り、涼やかな吹流しを垂らして可愛い七夕飾りを仕上げた。お客様として普段利用するだけではなく、店作りを一緒になって盛り上げてくれる気持ちが嬉しかった。リオちゃんは他にも、ワインのコルクで葡萄のオブジェや鍋敷きを器用に作り、店内にディスプレイしてくれた。

 過去、別の場所で出店を計画した際、開店前日に父が話してくれた言葉を思い出す。

 「明日オープンするあの店は、お前の店じゃない」

 事業計画を立て、融資の申込みをして、毎日施行業者と遅くまで現場で打ち合わせをして作り上げ、明日やっと開店にこぎつけるというのに、私の店ではないとはどういうことか。一瞬、訝しく思った。父は続けて言った。

 「店はお客様のものだ。お客様が作り、お客様が育てていくものだ」

 私はこの言葉を忘れない。

 お店という形を作っても、そこに寛いで楽しむお客様がいなければ、それはただのショールームでしかない。主役はお客様である。店のコンセプトに興味を持ってくれ、来店してくれた人が店の雰囲気を生み出す。リオちゃんのようなコアなお客様は、〈私の店だ〉という意識が強い。

 女性が安心して楽しめるというコンセプトは、狙い通りに維持してきた。店のカラーにそぐわない人は、自然と淘汰されてきている。

 他の屋台を見てみると、それぞれ客層の違いが分かる。元ヤンキーだった、という感じのちょい悪目の雰囲気を持った男女が立ち寄る店。若い男女の交流の場として利用される店。このような屋台では喫煙率が異常に高い傾向がある。年金受給資格を持つ年齢以降の男性が多く集まる店。ジャズを演奏するバンドグループがライブの前後に寄る店。三味線、尺八が好きな人が自然と集まる店・・・。

各屋台の看板メニューだけではない利用の選択が自然となされている。それは店主の趣味、思い、年齢、性別などの個性がそれぞれ違うからだとも言える。居心地いいと感じてくれたお客様がお客様を呼び、店の雰囲気が特徴付けられていくのだろう。そのようにして人が集まる店は、お客様同士の結びつきが強い。自然、常連客が多く立ち寄るようになる。

一方でデメリットもある。初めて屋台村を訪れた人の中には、常連客が幅を効かしている雰囲気に圧倒されて、その間に座る勇気がないという方もいる。一度入ってしまえば杞憂に過ぎないことが分かるだろうが、一定のハードルがあることは否定できない。コミュニケーションをとるのが苦手な人は、躊躇う場合もあるだろう。

一人よりは二人連れの方が入りやすいと思う。四人以上のグループだと、タイミングによっては入れない場合も多いことを知っておいた方がいい。屋台は八人からせいぜい十人ほどしか席がないからだ。

多くの人は、屋台ならではの袖振り合うコミュニケーションを楽しみに来店する。好みの料理と酒があり、居合わせたお客様の雰囲気に馴染めそうだったら迷わず扉を開けてみることをお勧めする。悩んでいるうちに、一瞬で席が塞がってしまうこともあるからだ。

お客様の笑顔と笑いが絶えない店でありたいと願う。

今日、誰が来店するかは分からない。毎日同じ人が来るわけではない。初めて来る人もいるだろう。今はよく来る方でもいずれは来店しなくなる日がある。お客様は常に入れ替わっている。それでも、リオちゃんを始め多くのお客様が産み育ててくれた店の〈空気〉を受け継がせていきたいと思った。

                      (続く)

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