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連載小説「黄昏と暁のみろく横丁」 shot.38

ワイン通と酒豪 (PART1)

 店に飾ってあるワインボトルやグラスフォルダーを見て、ワインのお店だと認識してくれる人が多い。もちろんその通りなのだが、中にはワインしかないと思っている人もいる。ビールもあれば、甘めの白ワインの代わりにフルーティーな日本酒も扱っている。

開店してしばらく経っても、ビールがあることを知らない人もいた。他のお客様が生ビールを飲んでいるのを見て話しかけてきた。

「へえ、マスター、ビール始めたんだ」

「オープンしたときからあるよ。いつもメニュー見ないで同じワインしか飲まないから知らなかったのかな。ほら、ビールのポスターだってちゃんと貼ってあるでしょ」

何十回も来ている人でもこの通りだから、初めからワイン目当てに入ってくるお客様が圧倒的に多い。私はソムリエでもなんでもなく、自分で美味しいと思ったものを扱っているだけだ。

 オープンの翌日に、ワインを飲める屋台は珍しい、と興味を持って来店した夫婦がいた。下北半島のむつ市から月に一度は八戸に来るという野坂ご夫妻だ。住まいの近くに〈下北ワイン〉を造るサンマモルワイナリーがあるという恵まれた環境で、色々なワインを堪能しているという。当店のワインも気に入ってくれて、八戸に来た際は必ず立ち寄ってくださる。

お気に入りはスペインのフルボディ〈ドラゴンレゼルバ〉。他のワインも楽しんでくれるが、一度もはずさないフードはジェノベーゼピザだ。低温熟成発酵で手作りしたピザ生地をオーダーごとに伸ばし、バジルソースとモッツアレラチーズ、パルミジャーノレッジャーノを削って焼成する。

ピザはマルゲリータの注文数が多いが、ジェノベーゼの他にはクワトロフォルマッジ、自家製アンチョビーのピザも人気だ。どれもワインとよく合う。ピザを作る場面になると大体のお客様はびっくりする。目の前で生地をピザパンに伸ばしているのを見て驚くようだ。

「えっ、ピザってそこからですか?」

私はニヤリと笑って言葉を返す。

「そこからって、どこから作ればいいですか?屋台で出てくるピザなんて、どうせ業務用の冷凍品をレンジでチンするだけだろうって、タカを括っている人が多いんですよ。ご覧のように全部手作りです。いい意味でお客様の期待を裏切りたいんです」

私はトッピングしながら、シズル感たっぷりのピザを披露する。

 夏の予感を期待させる陽の長くなった夕方、三十歳くらいの女性がにこやかに戸を開け、初来店した。

「ワイン一杯だけなんだけどいいかしら」

仕事帰りに軽く飲んで寛ぎたかったらしい。母親を亡くしてからは、家で父親の世話をしながら職場との往復だけを繰り返す日常だという。ワインはとにかく好きで、飲みに出る機会はあまりないが家飲みするときはワインと決めているそうだ。結婚もしたいが男性と出会う機会もない。初対面なのに彼女は臆することもなく笑顔で話しかけてくる。

「マスター、夏になったらオフ会やってよ。ヴィエントに来るお客さんに声掛けてさ。海でバーベキューしたら盛り上がるんじゃない?」

なるほど、それはいい考えだと手を叩いた。男女問わず他のお客様からも〈出会いの場が欲しい〉という切実な声を聞いている。いずれパーティーができるように企画しよう。

                                  (続く)

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