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連載小説「黄昏と暁のみろく横丁」 shot.39

ワイン通と酒豪 (PART2)

 ある日は四十代の久保沢さんと名乗るご夫婦が来店。二人揃って大のワイン好きで、ワインアドバイザー顔負けの知識と楽しみ方をよく知っている。秋になると山梨や北海道のブドウ産地に出掛けて、ワイナリー巡りをするのが楽しみだという。

 八戸では毎年五月に〈ワインフェス〉が催される。奥さんは、そのテイスティングコンテストで二位に入賞した。惜しくも一位を逃したのは、テイスティング最後のワインが好みではないシラーだったためらしい。普段は飲まないシラーを他の葡萄品種と間違えたそうだ。

 当店は屋台だから決して品揃えは充実していないが、二人であれこれワインをチョイスして楽しんでくれる。ワインについて教えてもらうことも多く、メニュー展開の参考になることもしばしばだ。

 他にも、ワインを教えてくれるお客様がいる。ユキちゃんもワインが大好きな女性だ。ワインや食事を楽しみに、仕事のあとは毎晩のようにお店巡りをしている。

「美味しいワインと食事があるお店には、よく出没すると言われています」

 週に一、二回のペースで来店してくれるユキちゃんの言葉に励まされ、もっと気に入ってもらえるワインとそれに合う料理を作ろうと普段から考えるようになった。

 実際、試飲ワインを用意したときには、ユキちゃんと久保沢さんたちの意見を参考にすることが多い。彼女らのアドバイスは的確だ。なにしろ、ラベルを見なくてもテイスティングすれば何のブドウ品種で造られているかが分かるほどだから。私はソムリエでもないのに、労せずして品揃えを強化していくことができるのでありがたい限りだ。

 そんなワイン通のユキちゃんたちでも、他の店ではなかなか味わえないワインが置いてある。スペインのシェリーワインだ。ドライシェリーから極甘口まで十一種類をラインナップしている。シェリーワインをここまで扱っている店は他にないとよく言われる。取引のある酒販店では手に入らず、東京の並行輸入業者から毎月仕入れる。食前、食中、食後の様々なシーンに合わせて楽しむことができるシェリーは、醸造途中でブランデーを加えてアルコール度数を高めた酒精強化ワインだ。

 オープン前に、酒屋や知人などから心配されたことがある。

「東京ならいざ知らず、八戸でシェリーは難しいんじゃないの」

 しかし、ファンは確実に増えてきた。出張や観光で訪れた人の中には、屋台にこれだけの種類を置いていることに驚く方もいる。

 そのシェリーワイン全種を制覇した人が四人いる。男女それぞれ二人ずつで、ユキちゃんもその一人だ。

 その四人のうち、一度の来店で全種を飲みつくした人が男女一名ずついる。チカちゃんは三時間ほどの間で全部を制覇した。チカちゃんはまだ二十代後半のOLだが、お酒には滅法強い。彼氏が二杯くらいで満足しているのに、チカちゃんは物足りないようで一人で杯を重ねる。シェリーを全種飲もうと思い立ったらしいある日、友人の女性と二人で来店した。甘口から段々ドライなものへ順番に注文する。

「だって、最後に甘いものが続くと飽きて飲みきれないかもしれないから」

 そのような戦略がチカちゃんにはあったようだ。度数は十五~二十二度と日本酒より強いシェリーを、顔色ひとつ変えずどんどん飲み干していく。閉店の十二時には全種飲み終えたが、チカちゃんにはまだ足りないようだった。その後、友達と連れ立ってバーに飲みに行った。

 横浜のシンちゃんとチカちゃんは、どんなに飲んでも呑まれないという点で真の酒豪だと思う。

 もう一人とんでもない酒豪がいた。四十代のその男性は、月に一度くらい遅い時間に来店する。彼は、震災後の催事出張で何度かご一緒したことがある食品製造会社の社長さんだ。当店で赤ワインを三杯ほど飲んで、それからはしご酒を朝までする。飲み始めの時間が遅いのは、節約のために家である程度飲んでくるからだそうだ。

「朝までって、何時まで呑むんですか」

「八時かな」

「明日仕事はお休み?」

「いや。八時半からあるよ」

「えっ、寝ないで大丈夫?酔ったまま仕事するんですか」

「酒臭くないようにマスクはするよ。せっかく飲みに出てきているのに、寝てしまうのは時間がもったいないじゃないですか」

 微笑みながら彼はワインをお替りする。

「家ではどれくらい飲んでくるの?」

「ビールだったら五百ミリ缶一ケースを二時間くらいで飲むかな」

 一ケースは二十四本入りだから、十二リットルだ。とんでもない。耳を疑ってしまった。

「さすがにビールだと高くつくから、最近は六缶パックしか置かない様にしているよ。あればある分飲んでしまうからね。焼酎で安く飲むようにしてるんだ」

「酔っているようには見えないけど、朝まで呑むって、酒量はどれくらいですか」

「焼酎だったら二十五度の芋焼酎を生のままで二升」

「チェーサーは置くんですか?」

「置くよ。一升瓶がなくなるまでの間、コップ半分くらいは飲むかな。水よりビールをチェーサーにする方が多いかな」

 彼はニヤリと笑ってワインを飲み干した。

「明日、仕事中は眠いでしょ。仕事終わったら昼寝するんですか」

「うん、帰ってから三十分位寝るかな。その後はまた飲み始めるよ」

「休肝日はとらないの?」

「ないね・・・。検診ではいつも肝機能が桁違いの数字で引っ掛かるよ」

これは、最早〈酒豪〉というより〈アル中〉だろうか。

                                   (続く)

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