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連載小説「黄昏と暁のみろく横丁」 shot.42

師走雑感

十二月一日は屋台村全体のイルミネーション点灯式の日だ。通路や屋台の屋根に色とりどりの装飾が煌めく。電気工事に詳しい〈もっこり〉の店主・高橋さんと係に選ばれた若手男性が、何週間もかけて寒風吹く中屋根に上り、手を凍えさせながら飾り付けした力作だ。三月末までの間、毎晩二時まで屋台村を彩る。

午後五時、いったん全ての電気を消して真っ暗になった通路を、中居が女性スタッフ二人を伴って鐘を鳴らしながら歩いていく。中居が店の前を通ったところで、各お店の照明とイルミネーションが順次点灯していくという趣向だ。女性スタッフは屋台村ギフトカードをお客様や通行人に配っていく。

慌しい師走を彩る様々なLEDの灯りは、冬の屋台村風物詩として定着してきた。年を追うごとに飾り付けの規模はエスカレートしているようだ。一年前このイルミネーションを見たときは、丁度出店の決意を固めた頃だった。今はこうして村人として屋台村に店を構えている。まだ八ヵ月ほどの営業だが、外部から見るだけでは分からなかった色々な出来事があった。予定よりも売上が伸びないという現実にも直面し、メニュー構成やサービスについて毎日のように悩みながら営業してきた。

一番の誤算は、開店間もない夕方の集客力が弱いという点だった。一軒目の利用としては居酒屋業態に分がある。八人ほどで満席の屋台では大人数を収容できないからだ。ピークは九時前後からという傾向も掴んだ。二軒目の利用としてある程度人数がバラけてから屋台を訪れる人が多い。第二のピークは十一時から十二時にかけてあるが、この時間帯では殆どドリンクだけに注文が集中する。

お店の独自カラーをアピールするためには、当初フードとドリンクの比率を六対四に設定するのが好ましいと考えていた。この比率が五対五か四対六になることも結構あった。それは想定していなかった利用のされ方があることを意味している。お客様の利用に合わせてメニュー強化と販促を図る必要がある。

まず開店の五時から七時までの間、リーズナブルな晩酌セットを打ち出すことにした。千二百円でドリンク二杯とオードブル三点盛りがつくという内容だ。原価率が高くついても店を利用するきっかけ作りになればいいと思った。利益よりも利用促進を目指すフロントエンド商品の位置付けだ。店を気に入ってもらえれば、店の売りであるバックエンド商品にもオーダーが入ってくるだろう。

酒類はカクテル、バーボン、シングルモルトなどワイン以外の洋酒も充実させることにした。遅い時間のお客様は、ワインやシェリーワインの次に飲む店としてバーに流れる傾向があった。これを見逃す手はない。バーで飲む予定だったうちの一杯を注文頂ければ、お客様はその分安く上がるし繋ぎにもなると考えた。これは当った。中には早い時間からグラッパ、カルヴァドス、マッカラン、ボウモアなどを楽しむ人も増えた。

あるお客様が九時くらいまでの間に何種類も味わって、そろそろ次の店に行こうかという算段になったときにポツリと呟いた。

「あれ?次は何処に行けばいいかな。飲みたいものは全部飲んでしまった。今からビールというわけでもないし・・・」

真面目に悩んでしまった様子だ。夜はまだ早いのにフィニッシュしてしまったわけだ。

品揃えは毎月少しずつ入れ替えたり、増やしたりして飽きさせないようにする工夫をした。いつ来ても何か新しいモノがある、何かが変わっている、という新鮮さを感じてもらいたいと思った。オープン当初は洋食レストランのイメージで展開したが、こうしてワインバーの雰囲気を高めていく方向に舵を切ることになった。

一方で、料理は季節感を大事にしたものを用意してアピールすることにした。寒くなってきたこの季節は、スペインのソパ・デ・アホ(卵とじニンニクスープ)やチーズフォンデュ、牛ほほ肉のシチューなどを展開することにした。これでお酒選びも楽しんでいただけることだろう。

開店から半年あまりが経ち、いろいろなお客様との出逢いがあった。リオちゃん、雪乃さん、トラちゃん、ユキちゃんたちも相変わらず足繁く通ってくれている。毎日新しいお客様が訪れ、馴染みのお客様との交流が広がっていく。屋台だからこそ自然に生まれる人の繋がりを楽しみに来る人が後を立たない。それは地元の方、観光の方、出張の方の区別なく、誰もが平等に享受できる喜びだ。

                                   (続く)

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