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連載小説「黄昏と暁のみろく横丁」 shot.68

判決  (PART3)

続いて、前訴提起に違法性があったかどうかについて述べている。

「原告らは虚偽の事実を捏造して訴えを起こしたこと自体が不法行為であると主張する。

しかし、先に認定したとおり、九月テナント会で終了通知がなかったと認めるに足りない。更に前提事実と証拠等によれば、賃貸期間は平成二十八年三月三十一日で満了すること。無断譲渡については、出店申込みを拒絶したところ他人への譲渡通知があったため、被告は契約解除の意思表示をしたこと。原告らは明渡しに応じず、前訴で定期建物賃貸借契約の成立自体を否認していたこと、以上の事実が認められる」

「上記認定事実によれば、被告会社が契約終了したことを前提として、明渡し請求と損害金の支払を求めたことが、事実的・法律的根拠を欠くもので、被告会社がそのことを知りながら又は通常人であれば容易にそのことを知り得たのにあえて前訴を提起したとは認められず、その他裁判制度の趣旨目的に照らして著しく相当性を欠くものとはいえないことは明らかである」

「仮に、九月テナント会における終了通知の事実が虚偽であったとしても、前訴を提起した時点では、既に書面による終了通知を行っており(前提事実)、通知から六ヵ月を経過すれば明渡しを求めることができるところ(借地借家法三十八条四項)、原告は定期建物賃貸借契約の成立を否定して、期間の定めのない賃貸借契約の成立を主張して明渡し義務を全面的に争っていたのであるから、九月中に明け渡されることが明らかな状況にはなく、明渡し義務の発生時期はともかくとして、明渡し請求権の有無を裁判において確定させる必要が大きかったものといえるから、前訴が裁判制度の目的に照らして著しく相当性を欠く訴え提起といえないことは明らかである。

従って、被告会社による前訴の提起が違法であるとは認められない」

アンケート作成提出行為の違法性については、次のような理由で一刀両断的に排斥している。

「テナントに対して虚偽の陳述書を作成するように働きかけた事実を裏付ける的確な証拠はないこと。更に、九月テナント会で口頭の終了通知がなかったとは認められないこと。

そして、アンケートは印字された質問事項に丸を付けたり、日付を記入するだけのものであって、記入者が〈九月テナント会で終了通知がされた〉と受け止めた可能性も否定できず、記憶に反して内容虚偽の記載がされたものと認めるに足りない。

仮に、被告会社からの強い働きかけによって、自らの記憶に反する内容虚偽の陳述書を作成した者がいたとしても、アンケートの体裁や記載内容に照らすと証拠としての価値はそれほど大きいものではなく、前訴の審理において積極的な反証活動を行えば足りるものであること」

「また、アンケートは前訴の証拠として使用する目的で作成され証拠提出されたが、裁判外では利用されていない。

更に、前訴については、被告会社が平成二十八年九月二十三日の明渡しまでの損害金の請求などを全部放棄しており、原告らにおいて、九月テナント会で終了通知があったことに基づく直接的かつ経済的不利益は全く受けていないことを踏まえると、例え陳述書の一部に内容虚偽の記載があったとしても、その作成提出行為が不法行為上違法なものであるとは認められない」

「以上によれば、原告らの被告らに対する不法行為に基づく損害賠償請求は、その余の点について判断するまでもなく、いずれも理由がない。よって、主文の通り判決する」

胸の透くような明快な判旨だった。

昭和六十三年一月二十三日の最高裁判例を踏襲したもので、敗訴確定か放棄したかに拘らず、裁判制度の利用を過度に抑制してはいけないという基本的人権の保障に則ったものだった。

屋台村側としては、何より早期の明渡しを求めて前訴を提起したのであり、相手方が予告通り九月二十三日に退去した以上明渡し請求訴訟を続ける意味はなくなった。

相手方の訴訟戦略が十分に練られたものではなかったことも、結果的には勝訴に繋がったと思う。判旨にあるように、相手方は前訴での反証活動が足りなかっただろう。反訴での立証活動も十分ではなかった。

定期建物賃貸借契約の成立を否定して、期間の定めのない賃貸借契約の成立を主張するというのならば、まず借地借家法三十八条所定の書面が適法に交付されたか否かを争うのが初動であるべきだっただろう。そして、過去の契約締結の実態を遡って調査すれば、実質的には期間の定めのない契約と看做すべき要因を見つけられたかもしれない。

おそらく、仙台高等裁判所への上告はできない。地裁の事実審と違い高裁は法律審だから、法律の解釈適用の誤りを指摘するような隙間は見つけられない筈だ。仮に上告しても、上告理由がないとして却下されるだろうと思う。

   (続く)

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