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連載小説「黄昏と暁のみろく横丁」 shot.69

報復

予想通り、事件は起きた。四月十日、月曜のこの日、私の店は定休日だったので翌日になってから事の顛末を聞いた。

真夜中十二時過ぎ、屋台村敷地に爆音を立てたバイクが一台乱入してきた。異変に気づいた店主らが数人、バイクの走行を阻んだ。運転していた男は敷地の真ん中にバイクを停め、〈そろそろ〉に向かった。

「綾ちゃん、綾ちゃんは居るか」

男は戸を開け、顔を店内に突き出して言う。

綾子ママは怪訝そうに店の奥から出てきた。

「お前が綾ちゃんか。白い仕事着を着ている奴の店ってどこよ」

声を凄めて威圧的に尋ねる。どこで知ったのか、普段、白いコックシャツで仕事する私を探しているのか。それとも証人尋問の日、上下白の服装だった綾子ママの店を確認しに来たのか。その両方なのか・・・。

「知らない」

怯えたように綾子ママが答えると、男はドアを閉めて立ち去った。

事件を聞かされたその直後、私は中居の携帯電話に連絡を入れた。

「昨晩の事件は耳に入っていますか。直ぐに危機管理体制を整えて欲しいんです」

「話は聞いた。でも、今出張中で宇都宮に来ているから私は直ぐに対応できない。明後日戻るまで、危険がないように現場対応してもらいたい」

「では、警察に相談して対処します」

「頼む」

早速、所轄の警察署に電話をかけた。警務相談課と話が繋がり、裁判から続く一連の経緯を伝えた。連絡体制を警察内部で密にとって直ぐに出動できるようにするから、身の危険を感じたら迷わずに通報するように、と言われて安心した。110番して「みろく横丁です」と言えば、パトカー二台が出入り口の二ヵ所に赤色灯とサイレンを消して急行する手筈が整った。

出張から戻った中居が、私のランチ店に来た。店に来る前に、警察のマル暴(八戸警察署刑事二課)と相談してきたらしい。警務相談課と刑事二課が連携して対応してくれることになった。私は、屋台村全店に向けての危機管理対応と注意喚起を促す文書案を中居に見せた。一読した中居は顔を上げて、手を叩いて言う。 

「そう、さっき警察署でも言われてきた。現行犯で逮捕するのが一番望ましいそうだ。もし、同じことが起きたらどうするか。皆が理解できるように分かりやすく書いてくれないか」

 私は引き受けて、次の文書をテナント会議の際に配布することになった。

〈危機管理対策について

  みろく横丁に深夜バイクが乱入したり、脅しとも取れる言動を屋台店主に投げかけるという事案が発生しています。今後、もし同様の事案があった場合には、どのように対処すべきかを念頭において、相互協力しながら日々の営業に励みましょう。

  いたずらに不安を募らせる必要はありません。あくまでも万が一の不測事態が発生した場合に備えて注意喚起するものです。既に、八戸警察署刑事第二課と警務課相談室との連携体制を整えています。警察署からのアドバイスを基に、次の点を徹底しましょう。

①危険を感じたら躊躇せず、すぐに110番通報する。

②防犯笛を吹いて近隣の店舗に報せる。笛を聴いた店舗は、更に笛を吹き全体に報せるようにする。そして、可能な限り問題の店舗(場所)に駆けつける。

③店舗内に居座られ、言いがかりをつけられるなどで困ったときは、携帯電話のボイスメモ機能やICレコーダーなどで録音する。携帯電話で録画ができれば、それも行う。

  バイクが乱入したときの対処法について、シュミレーションしてみましょう。

1、①②の通り行動しましょう。

2、みろく横丁の出入り口四箇所(三日町側・六日町側・花小路二箇所)を長机等で封鎖しましょう。目的は、被害拡大の防止(お客様を始めとした安全確保)と現行犯逮捕です。

3、バイクが停止したら、急発進などの危険がないようにイグニッションキーを抜き取るか、右ハンドルグリップにあるキルスイッチを押してエンジンを止めましょう。

4、警察が到着するまで、可能な限り犯人の身柄を確保しましょう。

 自身の安全確保が最優先です。以上の行動は、危険がない範囲でとってください。

 現行犯逮捕につなげることで、以後の安全を担保できると共に、毅然とした態度でみろく横丁全体が臨んでいる姿勢を示すことによって犯罪抑止力に繋がります。

  例えば、バイクの進入行為は刑法上罰せられる建造物等侵入罪です。長机等にバイクをぶつけることは器物損壊罪。「そこをどけ!どかないとぶつけるぞ!」と言われたら脅迫罪。バイクが身体に触れただけで暴行罪。びっくりして転んで怪我をしたら傷害罪にあたります。

  店内で脅す言葉を言われたら脅迫罪。お客様が通常のサービスを受けられない状況は威力業務妨害罪。退店を命じても立ち退かない場合は不退去罪にあたります。〉

翌日以降、綾子ママが住むマンション近辺に、不審な男が待ち伏せするかのように出没するようになった。身の危険を感じた綾子ママは、安全確保のためにしばらく実家に帰るという。脅迫まがいの威圧的な嫌がらせに屈するのは、相手の思う壺で問題の解決にはならない。皆で協力して、店舗の警護や送迎をするから、と言っても綾子ママは怖がって聞き入れなかった。数日後、綾子ママは店を男性スタッフ一人に任せて実家に帰ってしまった。

 眼に見えた妨害は、その後起きていない。バイク乱入時にナンバープレートの番号を店主の一人が控えていたが、警察に照会すると偽造プレートだった。チンピラがTの指示で嫌がらせに来たのは間違いない。しかし、証拠はない。

いつ捕り物騒ぎが起きるか、と戦々恐々の日々を重ねたが、事態は次第に沈静化に向かっていった。何事も起こらない平穏な日が当たり前になった。しかし、ただ一人、綾子ママだけは違った。Tらが退去しないことで店を半年営業できなかった上に、やっとオープンを果たしたのに自分の店へ来ることができない。なんとも大きな犠牲を一身で受けてしまった。綾子ママを待っているお客様のために、笑顔で店に立ち、安心して営業できる日が早く来ることを願って止まない。

(平成二十九年夏、綾子ママの笑顔が〈そろそろ〉に戻ってきました)

                                  (続く)

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