カートをみる ご利用案内 お問い合せ お客様の声 サイトマップ

 

連載小説「黄昏と暁のみろく横丁」 shot.71

裁判を振り返って (PART2)

私が選考決定されたのは、四期生契約期間満了一ヵ月半前の二月中旬だった。それは他の出店希望者も同様だ。もし、出店が認められなければ、既存店舗は残された四十五日間で次の展開を決めなければならない。廃業か、移転か、という重い判断をするにはあまりにも短い時間しか与えられていない。実際問題として、他の営業場所を探して移転するということは、物件調査・物件交渉・事業計画・資金準備・契約・設備工事・営業許可取得・開店準備などを短期間で進めなければならず土台無理な話だ。

継続営業を希望する者は、屋台村以外に移転することなど初めから考えていない。〈次はどの場所にシャッフルで変わるだろうか〉〈次も契約できるだろうか〉ということが最大の関心事項であるに過ぎない。そして、出店決定の通知が届く日まで、不安な想いで待ち続けるしか術がない。合格通知をドキドキして待つ受験生のようなものだ。出店が認められなければ生活の糧を失ってしまう。生きるために、意に反することも敢えて甘受し、デベロッパーの意向に迎合する途を選択するしかなかった者もいただろう。

このように考えると、Tらが明け渡しを拒み、裁判で争う姿勢を見せたのも理解できなくもない。過去、複数回再契約を交わしてきた経緯を考えると、出店継続の期待は高かっただろう。審査に通らないということなど思いもしなかったに違いない。五期生募集を機に、反社会的勢力と繋がりのある店舗を徹底して排除する姿勢で臨んだことは、健全な運営のために必要なことだった。しかし、そのために選んだ手段は、審査の結果〈出店不可〉という通知一つで済まそうとしたことであった。事前に面と向かって退店交渉したとしても、一騒動になる可能性はあっただろう。出物腫物に触れるかのように慎重に扱かうための策として〈契約を盾〉に事務的に済まそうとしたことは、裏目に出てしまった。

もし、Tらと同じ立場に立たされたら私も裁判で争うかもしれない。問題は、借地借家法で借主保護のために規定されている〈六ヶ月の猶予期間〉が実質的に与えられていないことにある。熟慮・準備期間が半年あれば、次の営業場所を見つけることは十分可能だろうし、強行規定である借地借家法の目的にも合致する。

この問題点を、私は中居に提言として伝えた。今までは出店の応募期間が十二月いっぱいで翌年一月に試食審査、二月に出店者決定という流れだった。このスケジュールを前倒しして、出店決定通知、或いは出店不可通知と共に原契約の終了通知を、契約終了日から半年遡る九月末迄に行うべきだと主張した。それに伴い、応募期間は八月末までに、審査は遅くとも九月上旬までに済ます必要があるだろう。そして、〈言った〉〈聞かなかった〉という紛争を未然防止するために、終了通知は文書で行わなければならない。このようにすれば、今後裁判で揉めるような事態は起こらないだろう。

今回の裁判で、ひとつの主要争点となった〈アンケート〉の陳述書について中居は語った。

「終了の話がテナント会であったかどうかのアンケートは、私がさせたものではないよ。あれは弁護士が勝手にしたものなんだ。依頼した以上、全部を弁護士に任せたのだから、私はタッチしていない。

弁護士は自分でアンケート作っておいて、自分で困ってしまったんじゃないか」

依頼人の中居と弁護士の意思疎通が、アンケートに関しては十分ではなかったのだろう。法の規定に則って終了通知が大事だと拘った弁護士の認識が、勇み足に及ばせたのかもしれない。もっとも、判旨の通り、その証拠価値は低かったから問題にならないで終わった。

開業から十五年を経てみれば、起業家を育成するという目的の他に、尊重しなければならない別の目的も生まれてきた。それは既存店舗の健全な経営と繁栄だ。「八戸屋台村みろく横丁」の魅力を高めていくのは、二十六店舗それぞれの営業努力に尽きる。テナントを育てていくという意識を今まで以上にデベロッパーが持つことでこそ、中居が目標に掲げる〈日本一の屋台村〉が現実のものとなるであろう。

                      (続く)

コメント

[コメント記入欄はこちら]

コメントはまだありません。
名前:
URL:
コメント:
 

ページトップへ